RIGHT STUFF, Inc.

Right Stuff Wrong Stuff


安物トルクレンチを試験する

ここにはトルクレンチ試験中の画像があります

先日購入したトルクレンチ、安物だけに精度が気になります。何とか検証してみたいのですがトルクレンチテスターなどを購入していては本末転倒です(笑)。

複雑な機構では検証機構その物の精度が問題になりますから、思いついたプリミティブな方法が左の方法です。

作業台に固定された万力に3/8→1/2のアダプタを固定し、アダプタの3/8角穴にトルクレンチを差し込んでトルクを受ける部分を構成します。

トルクはアームにくくりつけたひもを、ばねばかりで引っ張ることにより加えます。ひもをくくりつける場所は一部分だけローレットが削り取ってある基準位置が有りますので、その場所にします。これで「アーム長×力」と言う教科書的でプリミティブな検証装置が出来ました。 この場合の精度はアーム長の測定精度と、ばねばかりの精度に依存するはずです。


ここにはトルクレンチ試験中の画像があります 次にちょっとだけ工夫です。このトルクレンチのレンジは13.6Nmから108.5Nmまで有ります。アームの長さは概略で205mm程度ですから、ばねばかりは最大秤量が50kgの物が必要です。

所有するばねばかりは10kgと20kgだけです。50kgのはかりは持っていませんし、たとえ持っていても目盛りを読みながら引っ張ることなど出来ません(笑)。そこで680円で滑車を買ってきて、20kg以上のゾーンでは力を2倍にすることにしました。ひもは強度の有りそうなナイロンロープです。

ますます物理の教科書みたいで素敵です。

測定時はばねばかりの反力を受けるために、作業の教科書通りに左手でトルクレンチのヘッド部分を保持する必要が有ります。


以下は測定結果です。

測定の順序としては、トルクレンチを親目盛り単位にセットしてその時の実トルクを測定することにしました。ただし、13.6Nmの精度だけがあまりに悪かったので、親目盛りの半分である20.4Nmも例外的に試験してみました。

モーメントアームが変化しているのは、ハンドルをねじ込むと基準の位置が少しずつずれていくからです。基本的に10回測定してその平均値を取りましたが、81.4Nmだけは恐ろしくて(ひもが切れたら滑車が恐ろしい勢いで飛んで来ます・・・)2回しか試していません。またこの時のばねばかりの読みは20.2kgですが、20kg以上は目盛りが有りませんので、目分量です。(ちなみにはかりの読みはkgですが、実際に測定しているのは横向きの力(kgf)です。これを(N)に換算しています。)

ばねばかりの読みで20kgを越える部分は滑車により力を2倍にした数値です。したがってこの数値には滑車のロスが含まれているはずですが、樹脂の良く滑る滑車としなやかなナイロンロープの手触りから想像すると、効率は相当良いと思いこむ事にして、この部分の検証は無視しました(笑)。

設定値
(Nm)
モーメント
アーム(mm)
ばねばかり
の読み(kg)
加わる力
(N)
実トルク
(Nm)
実トルク/設定値
(%)
13.62078.280.416.7122
20.4206510.510321.3104
27.120613.613327.5101
40.720519.619239.496.8
54.220426.8 (13.4x2)26353.699.0
67.820333.6 (16.8x2)33067.098.7
81.420240.4 (20.2x2)39680.198.4

結論としては、最低の13.6Nm付近では22パーセントもの誤差が有りますが、20.4Nmでは4%に収まっています。それ以降は信じられないくらいの満足できる値ばかりです。安物トルクレンチ恐るべし!

このクラスの製品では、初めから20Nmから100Nmくらいの設定になっている物も有ります。13.6Nmの位置では、ばねが座面に当たり始める位置ですからセット時の手触りも不安定でした。設計的にも5倍くらいのレンジが無理のない範囲なのだと思います。したがってこの製品を使うときも、20Nmから100Nm程度と割り切れば良いのです。

かなり気に入ったので、このシリーズで1/2インチと1/4インチが見つかれば直ぐに買ってしまいそうです。


このボタンは、目次に戻るリンクです。