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GX250 ポイントのチャタリング対策 その2

ポイントのチャタリング対策。やっぱり気になるので寝る前にいつも考えていました。毎日考えていると、ふと良い案を思いついてしまいました(^^)。

ワンショットマルチバイブレータは使わずに時定数の異なるフィルタを二つ用意し、その出力をオープンコレクタのワイヤードorでまとめるのです。我ながら素晴らしいと思いました。しかし深夜の一般家庭にこういう話が通じる人間が居るわけがありません・・・

どのくらいの抵抗とコンデンサを選ぶべきかもはっきりしなかったので、話し相手の居ない私はPspice君に案を見て貰うことにしました。


ここにはPSpiceでシミュレーション中の画像があります。

考え方はこうです。最初の立ち上がりで高周波側のTrがオンになって素早くFETをオフにします。その後に汚い波形で高周波側のTrがオンオフを繰り返したとしても、鈍感な低周波側のTrが何時までもオンのままなのでワイヤードor接続されたFETはオンになることはありません。

我ながら素晴らしいアイデアです。早速Pspice君に働いて貰って定数を決めていきます。

過去の測定データを眺めて起こりうる最短と最長のパルス巾を想定します。その範囲内であれば各種のパルスを入力しても上記の動作になるようにCとRを決めました。

こんなの計算できないし、もし出来たとしても面倒くさくてやるはずがありません。Pspice君は偉大です。ちょっとではなくて相当感心しました。


予定ではここには完璧な波形データが載っているはずでした。確かにFETのゲート波形は綺麗になりました。しかし、ドレイン波形は相変わらず大きなオンオフを繰り返しているのです。。。

チャタリングによる汚い波形は無くなりました。しかし乗ってみてのフィーリングは全然変わっていません。データもフィーリングも変わらない・・・ちょっと疲れてしまいました。


また数日悩んで新しい仮説を思いつきました。ゲートが綺麗なのにドレインが汚い・・・と言うことはドレイン側のみで何かが起こっているのではないかと・・・もしかしたらサプレッサダイオードのクランプが悪さをしているかも・・・

と言うことでFETを900V耐圧の2SK2847に変更して実験してみました。900Vも耐圧があるのでサプレッサダイオードは付けて居ません。

ここには900V耐圧FETでの波形があります。
ここには900V耐圧FETでの波形があります。
ここには900V耐圧FETでの波形があります。

するとこんな波形が取れてしまいました。1番上は全体の波形です。特に変なところはありませんが、ピークはもっと上まで行っている感じです。

2番目は横軸を拡大した波形です。まだオンオフを繰り返しています。しかしオンオフと言うよりも振動にも見えます。最初のピークがずっと上まで行って、次がマイナス側に振れようとする。でも寄生ダイオードでクランプされて0Vでお終い。その後は振幅を減らしながら振動を続ける。こんな感じでは無いでしょうか。

クランプされていないピーク電圧を知りたくて上までスクロールしたのが3番目です。驚くべき結果でした。1kVを超えて1.1kVまで行ってました!(x10プローブしか無いので全体像が見えずに残念です。)

断定は出来ませんがたぶん。。。チャタリング起因のオンオフに見えたのは容量成分の振動と思われます。サプレッサダイオードの電圧が低い場合は早めにクランプされてしまうために、もっと複雑な波形になっていたのでしょう。今回の規制無しの試験によって、本来の波形を確認することが出来ました。

と言うことは、この激しいオンオフに見える波形はこのままでも良いのかもしれません。もし綺麗にしたい場合はFETの駆動部ではなくて点火コイルの1次側(又は2次側も?)でLとCのバランスを弄る必要がありそうです。


チャタリング以外にも解ったことが有ります。クランプ無しなら1次側が1kV以上まで上がっているという事実です。これはなかなか信じることが出来ません。

試しに計算をしてみます。別の測定と実験からこのコイルの1次側インダクタンスは15mHと解っています。これに定常状態で3Aの電流が流れています。2SK2847のターンオフタイムは95nsです。これらから計算される理論的に最大の逆起電力は
V=(15/1000)*3/(95/1000000000)=473kV・・・うーーん。

実際のゲート波形では立ち下がりに20usくらいかかっているのを前提に再計算すると、
V=(15/1000)*3/(20/1000000)=2.25kV・・・けっこう近いかも。 色々なロスやコンデンサ成分への充電などを考えると、1kVに落ち着いてもおかしくないのかもしれません。今でも信じられませんが。

もう一つ解ったことはフルトラの威力です。今回使った2SK2847はオン抵抗が1.1Ωも有ります。3Aの回路ではここに3.3Vものロスが発生しています。実際に放熱版無しでは触れないくらいチンチンに熱くなっていました。

しかし、その状態でも冷間始動直後には800rpmでもアイドリングしていますし、低中速のトルクはポイント式よりもずっと上です。利用可能なエネルギーがこれほど減少しているにも関わらず、ポイントよりも点火能力は高いのです。

これは単純に点火コイルに蓄えられるエネルギーだけが問題ではなく、場合によってはスパッと電流をオフにする事の方が重要であると言うことなのでしょう。

この辺りをふまえて、ケースに入れる実用品の仕様を決定しようと思います。


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