RIGHT STUFF, Inc.Right Stuff Wrong StuffXS650(XS1B) 超簡単なフルトラとセミトラ 前回の試作に続いて色々試して居ましたが、凄く簡単な構成でフルトラが実現できたので記録を残しておきます。
かなり単純になった回路図です。ホールICの出力は2SA1015で受けます。ここのR1はハネウエルのアプリケーションノートでは47kとか大きめの値が例として挙がっています。このくらいで実験していましたが、卓上でもかなり不安定な傾向が有りました。 少し不安が有りましたがそのまま車体に装着してみると・・・。自分のノイズを拾って勝手にマルチスパーク状態です(笑)。さらに隣のシリンダーのノイズまで拾ってしまい、同時点火も実現しています。もう脱力して笑うしか無くて再度試験です。 ホールICがオフの時をよく考えてみます。1015のベースは電源に対して47kでプルアップされているだけです。さらに820Ωを経由して、ホールICまで長い「アンテナ線」が伸びているのです。自分からノイズを求めているような状態でした。 1015のベースのインピーダンスを下げるためにR1を小さくする検討をして220Ωを採用することにしました。この場合の電流のバランスは以下のようになります。 ホールICがオフの時はR1にもR2にも電流は流れません。1015のベースを電源に対して220Ωでプルアップしているだけの状態です。47kの時に比べると2桁ほどインピーダンスが下がりました。 ホールICがオンの時はR2の820を経由して1015がオンに成ります。電源電圧を14.5VとすればVbe=0.6Vからベース電位は13.9Vと成ります。ホールICのVce(sat)=0.15Vとすれば820Ωの両端電圧は13.75VなのでR2の電流は16.8mAと成ります。またR1の両端電圧はVbe=0.6Vなので2.7mAが流れます。 ホールICの定格は20mAなので範囲内です(電源電圧が24V以下の場合は50mAまで許容されていますので、R2をもっと小さくして電流を増やした方がノイズに強くなるかもしれません)。1015のベース電流は16.8-2.7=14.1mAです。1015のIbは50mAなのでこちらも問題有りません。
次にFETの駆動側ですが、いまの所スイッチングを速くしてもデメリットばかり出てくるのでオフ側のトランジスタは無しにしています。適当な抵抗でFETのゲートをグランドに落とすだけです。470Ωはスイッチング速度から決めた値ではなくて、オン時の消費電力から決めた値です。私は1/4Wを使っていますが、イグニッションスイッチオンでエンジン停止を考えると1kΩ1/4Wを2本並列に使った方が良いかもしれません。 試験的にゲートと並列に0.1uFのコンデンサを追加し、R3を10-100k位にしていました。これだとスイッチング速度がはっきりと遅くなって逆起電力を200-500V前後でコントロール出来ます。しかしあまりにインピーダンスが高いために、ノイズの影響を受けるために止めにしました。 ゲートの保護用に16Vのツェナーだけを入れています。2SK3192だけに関して言えば、ツェナー無しでも壊れたことは1回も有りませんが・・・ 逆起電力クランプ用のサプレッサダイオードは廃止しました。これも2SK3192に限定の仕様です。2SK2192のVdsは250Vです。今までは200-220Vのサプレッサダイオードでクランプしていました。しかし1次側が200Vまでしか上昇しないのは容量成分のピークとして少し不満です。 そこで色々試験してみると、2SK3192はクランプ無しで自らのアバランシェ降伏だけで壊れない事が解ったのです。これは私の手持ちの単車用コイルに限定ですから、4輪用等で条件が変われば壊れるかもしれません。アバランシェ降伏の電圧は275Vくらい有ります。まあまあ満足できる値に成りました。
イグニッションコイルへはバッテリーから直接給電しています。2SK3192の漏れ電流は10uAです。回路が壊れて居なければまったく問題に成らない値です。これによってコイルの電圧が1V程度上昇しました。13V->14Vと考えると16%エネルギーが増加した計算になります。 長くなりましたがこんな感じです。入手の難しいサプレッサダイオードは使っていません。FETは今のところ秋月で200円です。その他の部品は数円から数十円です。高価な2コイル用フルトラを奢ってやれない旧車が、これでよみがえると嬉しいです。 ポイントを残してセミトラにする場合は、R1,R2を見直してポイントにもう少し電流を流してやった方が接点の清浄度を長く保てると思います。と書いたけど、よく考えたら「線R」と「線Y」の間に適当な抵抗を入れてしまえば良いわけです。こうしておけば将来フルトラに変更するときに、この抵抗をちょん切れば良いだけです。 例としてここに100Ωを入れれば140mA程度を追加でポイントに流すことが出来ます。消費電力が2Wくらい有るのでその辺だけ注意が必要です。
上記を回路図にしたらこんな感じに成ります。R4の値は100Ωが良いのかどうかは解りません。自動車の技術としては既に過去の技術なので、こんな関係の資料は中々出てきません。色々と変えてみて実験することが必要かと思います。 傾向として、電流が少ないとポイントの荒れや消耗は少なくなると思いますが、軽いスパークによる清浄作用は期待できずに長期間では接触不良が起こるかもしれません。電流が多いと全く逆の傾向と成りますし消費電流も多くなります。抵抗器の発熱も気になってきます。 今回のイグナイタは左右で独立タイプとしました。XS1は2個必要なのでちょっとだけ製作が面倒ですが、そのままで単気筒にも適用できるシンプルさなどを考慮してみた次第です。 放熱版を兼ねたアルミのアングル上に回路を組み立てていきます。最終的にホットメルト系の接着剤で固定・封止します。 装着状態です。イグニッションコイルの取付ボルトと共締めにします。スペース的な効率も有りますが、電気的にもコイルの近くで断続をやった方が性能やノイズなどの面で有利かな?と言う気持ちでした。 この考え方を進めていけばコイルとイグナイタが一体となって、今風のダイレクトイグニッションもどきに成るのかもしれません。 |