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XS650(XS1B) ガバナのスプリングを作る

フルトラにして進角がおかしくなったので、遠心ガバナのスプリングを自作しました。


ここには進角特性図が有ります。

スポンジを貼り付けたり細かい改造をしたりしていましたが、セミトラの最終段階では基本的にノーマルに近い進角特性が得られていました。しかしフルトラにしてポイントを取り除いただけなのに、どうしても進角特性が元に戻りません。

何回弄っても標準のバネを使う限りは、上図のような特性しか得られないことが段々とはっきりしてきました。ポイントを押し開く仕事が不要になったので、ガバナのウエイトが軽く外側まで動いてしまうことが原因のようです。

30年くらい前の日本電装や日立の技術者なら知っていることなのかもしれませんが、今の時代にこういった内容の資料を見つけることが出来ませんでした。


ここには 画像があります。

グラフや挙動から解るようにバネが柔らかすぎる訳です。と言うことで最初のうちは標準のバネを1巻ずつ減らしていってバネ定数を上げて試験しました。しかしそれでは目に見えるほどの効果は得られませんでした。

そこで超概算ですが計算をしてみます。2500rpmの時と3500rpmの時の遠心力の比率を求めると。遠心力はF=mrω^2ですから回転数の2乗に比例します。(3500/2500)^2=1.96となり今より2倍強力なバネが必要だと解りました。

アイドリング辺りの初張力の問題やガバナのリンク比が変わっていく問題が有るために、実際はこのように簡単では有りませんが、1巻2巻をカットして調整できる範囲では無いことははっきりしてきました。

そこでホームセンターで良く似た寸法のバネを買ってきてみましたが、使えそうなバネ定数の物は有りませんでした。仕方ないのでバネを自作することにしました。

以前作った計算シートで確認すると、オリジナルのバネは以下のスペックです。
 素線径 0.8mm
 コイル中心径 5.0mm
 有効巻数 9巻
 バネ定数 3.55N/mm

近所のホームセンターで入手できるピアノ線の寸法を考慮して計算してみます。

自作1
 素線径 0.9mm
 コイル中心径 5.0mm
 有効巻数 9巻
 バネ定数 5.69N/mm

自作2
 素線径 0.9mm
 コイル中心径 4.5mm
 有効巻数 9巻
 バネ定数 7.80N/mm

自作3
 素線径 0.9mm
 コイル中心径 4.0mm
 有効巻数 9巻
 バネ定数 11.1N/mm

スプリングバックを考慮して、2.8mmから4mmくらいまでの丸棒に0.9mmのピアノ線を巻き付けてやれば良さそうだと言うことが解りました。


ここには 画像があります。

製作です。旋盤があればもっと綺麗に巻けるのでしょうが、とりあえず万力とドライバーの軸で挑戦です。何十巻も負けと言われると困りますが、9巻くらいなら綺麗な部分が取れそうな素材が出来ました。

この過程で革手袋を突き破って来たピアノ線が親指に刺さりました。2日くらいズキンズキンと痛いです。あまりお勧めの方法では有りません。

この後は両端を90度に折り曲げて完成です。ラジオペンチ類を総動員して何とか形をでっち上げます。冷間加工なので内部応力が溜まっていると思いますが、熱処理の方法が良く解らなかったのでそのまま使うことにしました。

シリンダヘッドに装着されて何回も100度くらいまで加熱と冷却を繰り返していれば、じきに内部応力は無くなってくるでしょう(笑)。それに下手なことをして焼き鈍しになってしまうことも怖いですし。


ここには 画像があります。

実験中の画像です。左上がコイル中心径4.0mmのバネ。右下が4.5mmのバネです。この組み合わせでもバネが柔らかすぎたので、最終的には両方ともコイル中心径4.0mmのバネを装着しました。

バネ定数と共に動き始めの回転数も調整する必要が有ります。バネの立場で言えば取付時の初張力のセットです。メカ的な寸法は決まっていますので、実際にやる行為はバネの隙間をマイナスドライバーなどで広げて調整することになります。


ゴソゴソやってなんとかセミトラと同等の進角特性が得られました。とは言っても内部応力が無くなってきたらセッティングが変わるかも・・・とか、引っかけ部の根っこに傷が沢山あるから折れるんじゃないか・・・とか、心配事は沢山あります。

しかしこのバネが折れても最大進角になるだけです。1巻減らした状態で取付直してもOKですし、ガバナを適当なところにひもで固定してやってもガレージまでたどり着く事は可能でしょう。

PICによるデジタル進角が出来るまでは、この状態で使っていくことになります。


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