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XS650(XS1B) ドレーンプラグ廻りの亀裂修理

XS650系にはクランクケース下に2個のドレーンプラグが付いています。オイル交換の時には2個を外す必要があります。しかし私のXSは後ろの方のプラグが取れません、学生の時に八幡の解体屋で買ったときからずっと。。。

外れないプラグは銅ワッシャが入っておらず、キチキチに締まっていました。20年以上前になりますが、これを何とか外そうと努力しました。しかしドレーンプラグは外れずに廻りのクランクケースにひびが入ってしまったのです。

外れないほど締めたのは前の所有者かバイク屋が悪いのですが、長いパイプを使って闇雲に力をかけて壊したのは私の責任です。なぜこのような壊れ方をしたのかに関しては、別途「なぜTレンチだと簡単に緩む気がするのか」に纏めてみました。

昔から本質的な対策をせずに小手先の誤魔化しだけで生きてきた私は(笑)、亀裂の周囲にエポキシ系接着剤を塗りたくって使い続けました。

50歳を目前にした今、この部分が人生の汚点のような気がしてきました。このままではいかんと思い立って再度プラグに挑戦したところ、今回は見事外すことが出来ました。胸のつかえが取れた感じですが、年数のたったエポキシが剥がれてオイルがポタポタ漏れ始めてしまいました。

と言うことで、ドレーンプラグ廻りのクランクケースに入った亀裂の修理です。


ここにはひび割れたケースの画像があります。

白く粉を吹いたようになっている部分がエポキシを充填していた部分です。この写真でボスの上の方1/3ほどの円周上に亀裂が入っているのが解ります。

修理の案はいくつか考えましたが、「分解してアルゴン溶接」は面倒だし熱の悪影響も有りそうで却下。「分解して接着剤で修理」も面倒なので却下。以前と同じように「エンジンを降ろして接着剤修理」もめんどくさい。で、今回は「機上で接着剤修理」が良かろうという結論に落ち着きました。大人になったはずなのに考え方が退化していて情け無くなります(笑)。


ここにはクランクケース内部の画像があります。

参考までにXS系のエンジン内部です。これは部品取りに持っているTX650ですが、セルが付いたXS650E以降はこれとほとんど同じ構造です。XS-1とXS-1Bのみはセルモータが無いのでそのぶんオイル容量が多くなっています。

この画像の右半分がクランクケースで、左半分がギヤボックスです。両者の真ん中には仕切の壁があります。ドレーンプラグは右半分に1個と左半分に1個の合計2個付いています。

仕切の壁には下から15mmのあたりにφ10mm程度の穴が1個空いています。ゆっくりとしたオイルの移動は有るけれど、運転中は基本的に別の空間として潤滑を管理したいと言った雰囲気でしょうか?

φ10mmの穴を一番下にせず、ドレーンをあえて2カ所にしたのは何故でしょう?クラッチやギヤボックスで発生するスラッジ類を極力クランクケース側に持ち込まず、出来ればそのまま下に澱のように溜まって欲しいと考えたのでしょうか?事実ギヤボックス側の方が汚いし、今回壊れたプラグの付近には数ミリの厚さでスラッジが溜まっています。


ここには傾けたバイクの画像があります。

手抜き整備なのでエンジンは降ろしません。ガレージの梁にチェーンブロックをかけてXSを寝かせていきます。真横まで寝かせれば作業が楽ですが、そうなると寝かせるための段取りが大変なのでこの辺りで作業開始です。

ガソリンタンクとバッテリーは外してあります。キャブはコックを止めてしばらくエンジンを回したので大した量のガソリンは残っていないでしょう。


ここには切削中の画像があります。

リューターで汚れを落としながら、半ば意識的に荒い傷を付けていきます。接着剤の接着力が失われてきても、凹凸に噛み合った物理的な力で脱落を阻止しようと言う浅はかな考えです。

なんかボロボロの歯を治療する歯医者さんになった気分です。


ここには接着剤の画像があります。

接着剤はデブコンのメタリックパテを使うことにしました。ホームセンターのエポキシを使うべきか、エポキシ粘土を使うべきか、ネット上で派手に宣伝しているエポキシを使うべきか、歴史のあるデブコンFを使うべきか・・・色々と悩んだのですが、年のせいか一番無難な選択になってしまいました。

メタリックパテは200gセットが7,330円もしました。高いと思っていたデブコンFでも500gセットで7,000円もしません。気が遠くなるくらいの値段です。でもこんな部分を何回も修理し直すのは嫌なので、耐熱温度160℃にかけてみました。

右側は普段仕事で使っている秤です。100gまでを0.01gの分解能で測定できます。メタリックパテは質量比で5:1なので、今回は大まかな計算から主材40gに対して硬化剤8gを混合することにしました。


ここには硬化中の画像があります。

耐熱プライマーと言う前処理剤が付いていたので薄く塗布します。その後混合して接着面をドライヤーで暖めて、指やヘラを使って伸ばしていきました。

メタリックパテは処理が悪かったのかと不安になるくらい濡れ性が悪いです。分類が「接着剤」ではなくて「パテ」だからでしょうか?ちょうど「エポキシ粘土」と同じ様な感触でした。最初の1層は塗り込まないと付きません。

気温が7℃くらいしか無かったので強制的に暖めました。1000Wのドライヤで1時間ほど暖めると、表面が何となく固まって来ました。


ここにはの保温中画像があります。

あとは粘着防止としてシールの台紙を上に載せ、使い捨てカイロを2個被せてその上から厚めのウエスで覆って一晩寝かせました。

外気温は4℃くらいまで下がる日だったので、翌日の午前中も段ボールの箱を作ってドライヤーの温風を3時間ほど当てて居ました。


ここには完成画像があります。

ここのボルトはM30x1.5です。大型トラックかと思うくらいのボルトが使ってあります。指定トルクは4.2-4.4kgf・m(41-43N・m)程度です。見た目だけで締めると確実にオーバートルクになるような値です。オイルまみれで銅ワッシャ有りのP=1.5mmから冷静に考えると納得は出来るのですが、気持ちとしてどうしても規定値の2-3倍で締めたくなってしまいます。

今回は特に亀裂部への不安が有りますから最低限のトルクで締めたい所です。でも緩むと大事故になってしまいます。メーカー指定値なら大丈夫なことは解っているのですが、安心のために安全線用の穴を追加しました。

快削鋼でも使ってあるのでしょう。ホームセンターの2mmドリルで綺麗な穴が6個開きました。昔取った杵柄でねじってみましたが、どうも中央部分が対称に捩れて居ないようです。自分のだから許してください。


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