RIGHT STUFF, Inc.

Right Stuff Wrong Stuff


点火装置の基礎

旧車を弄っていく上で必要となってきそうな点火系の話を纏めようとしています。素人が書いているので間違いや過不足が有るかと思います。間違っていたらごめんなさいです。


ここには説明図が有ります。

「ケタリング式」と呼ばれている回路の基本部分です。オートバイ乗りの間では「バッテリー点火」とか「ポイント式」と呼ばれることも有ります。ただ世の中にはバッテリーを電源としたCDIも有るわけで、「バッテリー点火」は分類的には正しい呼び方では無いかもしれません。「ポイント式」に関してもポイント式のCDIも作れるわけで、こちらも几帳面な人からは嫌われる呼び方なのかもしれません。

しかし言葉は相手に何かを伝えるために存在するわけで、相手が「バッテリー点火」や「ポイント式」でこの回路を思い浮かべてくれるのであれば、それはそれで正しい言葉なのかもしれません。

この回路を無接点化したものや、電源をフライホイールマグネトから供給するタイプの事を、同様に「ケタリング式」を呼んで良いのかどうか私には解りません。

取りあえず構成部品です。電源、イグニッションコイル、ポイント、スパークプラグ、が主な構成部品と成ります。


ここには説明図が有ります。

原理を考えるために回路を単純化します。イグニッションコイルが複雑に成ったように見えますが、考え方的には最初の回路よりも簡単です。

回路内に書かれている電圧は、ポイントが閉じてコイルの1次側に安定した直流電流が流れている状態を示しています。理想的な状態なので、配線の抵抗は0Ω、ポイントの抵抗も0Ωです。コイルの直流抵抗は無視する訳にはいきませんのでRΩとします。

コイルに流れる電流はオームの法則からI=E/Rです。バッテリー電圧が12Vで抵抗が3オームなら4Aが流れる事に成ります。

このときの各部の電圧は黄緑で示した通りです。これは中学校の理科の問題なので誰にでも解ると思います。


ここには説明図が有ります。

上の状態から、ポイントを一瞬で開いた状態です。この状態を理解するには中学校の理科の知識では無理です。交流理論などを理解している人には簡単ですが、そう言う人はこんなページを見ていないので対象外です。問題はかつての私のような、中途半端な機械屋だけど、こういう分野を理解したいと考えている人では無いでしょうか。そう言う人達は他の分野では何らかの知識や経験が有ります。それに置き換えて考えると理解が早まります。

一つの例は油圧回路です。コイルを流れる電流はグルグル巻いた長い配管中を流れる作動油と同じです。バッテリーは当然油圧ポンプです。ポイントは仕切弁です。ポイントを急に開く行為は、仕切弁を一瞬で閉じる行為に相当します。仕切弁が一瞬で閉じられると、行き場を失った作動油によって仕切弁の上流側に高圧を発生させます。

図中のVをkPaと書き換えればもっと実感が湧くと思います。12kPaの吐出圧のポンプであっても、仕切弁の閉じ方が急であったり途中の配管が長かったりすると、弁の前には300kPaくらいの圧力が立ちそうだなぁ。。。と理解できると思います。

電気の世界でも全く同じ事が起こっています。コイルの+端子に12V、-端子は0Vの定常状態で有ったのに、急にポイントが開になってしまった訳です。あたかもコイル中の電流が慣性を持っているかのように振る舞い、開いたポイントの上流側の電圧が急上昇してしまいます。

この電圧が急上昇している時間は、油圧と一緒で長時間は続きません。どのくらいの電圧まで上昇するかは回路によって異なります。普通はコイルが沢山グルグル巻いてあるほど、ポイントを閉じる時間が短いほど、高い電圧が発生します。この辺も油圧と一緒です。

この電圧で点火が出来れば簡単なのですが、現実的なバッテリーとコイルではそのままでは点火に必要は電圧までは上昇しません。そのためにもう一つのコイルをくっつけて巻き、トランスとして働かせてさらなる高電圧を得るように成っています。

バッテリーに接続する方のコイルを1次側、高電圧を得る方のコイルを2次側と呼びます。1次側と2次側の巻線の比が1:100で有った場合を考えます。

この辺りは中学や高校の理科の記憶でも理解できる部分です。このようなトランスに交流や瞬間的に変化する電圧を入力した場合、巻線比に比例した電圧が得られます。1:100のトランスの1の方に300Vを加えたら、100の方には30000Vが出てくるわけです。

ちょっと解りにくい関連動作になりますが、ポイントが閉になるとコイルのポイント側には一瞬だけ+300Vの高電圧が発生します。そのコイルの廻りには巻き数が100倍の2次側コイルが巻かれているわけです。1次側のコイルに+300Vが発生すると、トランスとして働いた2次側のコイルには+30000Vが一瞬だけ発生します。(バッテリーの12Vは説明簡略化の為に無視しています)

シリンダ内のスパークプラグに関しては、尖った電極を-側にした方が火花が飛びやすい性質が有ります。そのために+30000V側をエンジンにアースして、-30000Vをハイテンションコードで取り出してプラグに接続するわけです。

これでやっと、コイルを別けて巻いたケタリング式の基本動作が理解できました。


ここには説明図が有ります。

一つ上の図で電気的にはきちんと動作するわけです。しかし物理的・コスト的な要求かと思いますが、現実のコイルはこの図のように1次側と2次側の端子が一部共通に成っているのが大半です。

本当はもう少し複雑な話しに成るみたいなのですが、ポイントが開いた瞬間の状態を簡単に考えるとこの図のような電圧に成ります。

大事なことは

  • バッテリーの+端子はいつでも+12V。
  • コイルの+端子もいつでも+12V。
  • コイルの-端子はポイントが閉じていると0V
  • コイルの-端子はポイントが開いた瞬間だけ+300V
  • コイルの-端子はポイントが開いてしばらくしたら+12V
  • コイルの高圧端子はポイントが開いた瞬間だけ-29700V
このような電圧が印加されていると言うことです。

こういう風に見ていくと、バッテリーからコイルの+端子までの間の抵抗因子である、メインスイッチ、キルスイッチなどを低抵抗化するのは意味があることが解りますが、イグニッションコイルのアーシングって何なの?と思えてきます。

また、ポイントの開閉を検出するタコメータなどを自作したり装着したりする場合、直流的には0-12Vの変化でしか有りませんが、交流的には+300V位が毎回転印加されていることを考慮しなくてはならない事が解ってきます。

ポイント調整のためのツールやテスター類に関しても、通電した状態のポイントを開にすると瞬間的に+300Vが印加されることを頭に入れておかなければ成りません。電圧は高くてもエネルギーは少ないので昔からの豆電球式は壊れないと思いますが、低電圧用の敏感なテスト機器だと壊れてしまうかもしれません。


このボタンは、目次に戻るリンクです。