RIGHT STUFF, Inc.Right Stuff Wrong Stuffポイント、セミトラ、フルトラ、CDI 取りあえず用語の定義をしておきたいと思います。これが正しいとかJISで決まっているとか言う訳じゃなくて、私はこんな定義付けを頭に置いて書いているという説明です。 図を入れたいのですが未完成で済みません。内容も徐々に見直していきます。
ポイント式 一般的には電源、コイル、ポイント(スイッチ)、の構成から成り、ポイントを閉じてコイルに電流を流してエネルギーを溜め、点火のタイミングでポイントを開き、その時の逆起電力をさらにコイルの巻数比で高圧化して点火するシステムです。学術的?にはケタリング式が正しい呼び名かもしれません。 電源には普通6Vや12Vのバッテリーが用いられますが、小型のオートバイなどではフライホイールマグネトで発電した電力をそのまま用いるタイプも有ります。前者はバッテリー点火、後者はフライホイールマグネト点火と呼ばれる場合も有ります。 集合の考え方で行けば、広義のポイント式には後で述べるセミトラもポイント式のCDIも含まれるはずですが、一般的にはそれらを含めない方式を示して居ることが多いと思います。 ポイントが開になった瞬間のコイル逆起電力はdi/dtに大きく依存するわけですが、低回転時にはポイントの開動作が遅くなるためにポイント間で放電してエネルギを減少したり、その対策としてコンデンサを付ければコンデンサ経由でも交流成分は流れてしまったりします。そのために低速域の火花が不安定な傾向が有ります。 本質的に機械的なシステムであるため、コイルの通電時間をコントロールする等の小技が出来ません。そのためにドエルタイムが低速域では過大で高速域で不足がちになり、エネルギー不足から高速域の火花が弱くなります。 さらに機械的な接点容量からコイル電流が4A程度に制限されたり、接点やカム廻りの定期的なメンテナンスが必要と成るなどの問題も有ります。利点もあって、システム中のブラックボックスは点火コイル位なので、誰もが現象を目で見て確認できることです。
セミトラ式 コイル電流をオンオフする仕事を、機械的なポイントから半導体であるトランジスタ等に置き換えて、ポイントの開閉に起因する問題を解決したシステムです。ポイントは信号源として残っています。全部をトランジスタでやる訳じゃない→セミトランジスタ方式→セミトラなのでしょう。 上記の解釈は国産の旧車と言われる四輪二輪の世界では定着していると思っていましたが、最近のハーレー関係では違った解釈が有るようです。JISで規定されている訳では無いのでどっちが正しいの議論は不毛です。相手が何を思い浮かべているかを確認してから話をした方が良さそうです。 極低速域でもコイル電流を安定して一瞬で切断する事が出来るため、始動時から安定した高い放電電圧を得ることが出来ます。また、機械的な接点容量の問題が無くなるので低抵抗のコイルを採用すればコイル電流を増やすことが出来ます。それ以外の部分に関してはポイント式と大差有りません。 このように書くとセミトラ式は過渡的でパッとしないシステムに感じられますが、ポイント式→セミトラ式の変化が一番体感できる変化になります。セミトラ式→フルトラ式の変化では体感できる部分はほとんど無く、機械式に起因する長期間での不安定さや不自由さを取り除いた事が大半です。 セミトラ式の特殊な物に三田無線の社長さんが考案された回路が有ります。ポイントに直列にNPNトランジスタを入れ、ポイント開時に発生した逆起電力によってエミッタがベースに対して逆バイアスされてオフに成るように組まれています。ポイント式の一番の問題は接点開が短時間で行われない事ですが、この方法だと接点が少し開いて逆起電力が12V以上発生した瞬間にトランジスタがオフに成ります。そのためにポイントには12V以上の電圧は加わらず、この部分で火花放電することも有りません。後は直列に入ったトランジスタが瞬間的にオフにしますから高いdi/dtが期待できる興味深い回路です。
フルトラ式 セミトラ式からポイントを廃止し、代わりに、ピックアップコイル、磁気センサ、光学センサ、等の機械的な接点を有しない検出部分に変えたシステムです。 初期のフルトラ式はまさに上記の通りで、回転数や吸入管負圧に応じた進角などは、それぞれ遠心式ガバナやダイヤフラム式のバキュームアドバンサに依ってコントロールされていました。したがってポイントその物に関する問題点は解消されましたが、それ以外には依然として機械物が存在するシステムでした。 電子式の制御が広まってくるにつれて、進角の度合いも回転数センサや負圧センサからの信号を元に全電子式の制御が行われるように成ってきました。今の市販車はこのレベルのシステムが普通です。しかし皮肉にもこのシステムを使っている人達がフルトラという言葉を使うことは極希です(笑)。
CDI式 前記のどのシステムも基本はコイルに溜めたエネルギを用いる方式でした。しかしCDIはあらかじめコンデンサ(キャパシタ)に溜めたエネルギを用いる方式です。点火の瞬間の様相も異なっていて、ケタリング式ではコイルに流す電流をオフにした瞬間に点火しますが、CDIではコンデンサに溜めた電荷を点火コイルに流した瞬間に点火します。 CDIのメリットとしては2次側電圧の立ち上がりが早いために、くすぶったプラグ等に対しても高圧の漏れ電流が発生する間もなく、素早く放電可能な高圧を印加出来ます。そのためにかぶりがちな小型の2stエンジンなどでは大きなメリットが有ります。しかしこのメリットの大半は低インダクタンスのCDI専用コイルに依る物です。ポイント式用の高インダクタンスの点火コイルを用いてCDIを実現したとしても、それは単にCDIと言うだけで、2次側の早い立ち上がりは期待できません。 それならばポイント式でも低インダクタンスのコイルを使えば良いのでは無いかと言う疑問が出てきますが、ポイント式の場合はコイルの役目が変圧器だけでは無くてエネルギーの蓄積器でも有るために難しいのです。コイルに溜まったエネルギはE=1/2・L・I^2で表されますが、2時電圧の立ち上がりを早くしようとしてLを小さくすると蓄積できるエネルギが小さくなってしまいます。CDIの場合はコイルとは別にエネルギを溜めておくコンデンサが有りますから、この辺りの問題がシンプルで解決しやすく成っています。 同様に高速域のドエルタイム不足から来るエネルギ不足などに関しても、強力なコンデンサの充電回路さえ準備できれば比較的簡単に解決できます。しかし放電が短時間の容量放電だけに偏っているために着火性が悪く、近年の燃費や排ガス減少問題に関しては長時間の誘導放電を有するケタリング式に劣ってしまいます。 ここでも集合的な考え方をすれば、CDIにもポイント式やフルトラ式が存在するわけですが、何故か慣用的にそれらの呼び名からはCDI方式は除かれているように思います。 最近の若い人の会話やオークションの出品物を見ていると、CDI=点火装置として遣り取りされている例が有り驚きます。ハーレー乗りのセミトラの例は微妙な範囲の取り方の違いなので、どちらが間違っていると言う話では有りません。しかし何でもかんでもCDIと呼ぶことは明らかに間違いです。エンジンのことをジーゼルと呼び、タイヤのことをラジアルと呼ぶに等しい行為に感じてしまうのですが、私も時々使ってしまう「ステンレススチール→ステン」よりは罪が軽いのかもしれません(笑)。
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