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安物ママチャリの後ハブ軸修理

センター試験の前の日の夕方、長男が通学に使っている自転車の車軸が折れました。1.5万以下で買ってほぼ3年間使い続けてきた安物ママチャリです。一瞬はもう引退させてやっても良いかと思いましたが、そのほかの部分はまだ生きているので修理を試みる事にしました。


ここには折れた車軸の画像があります。

画像中央右寄りに折れた後ハブ軸が有ります。軸受けの配置的に、最も曲げモーメントがかかると思われるフリー側軸受け付近からポッキリと折れています。

断面を観察すると、直径で1/5程には貝殻状の破断面が確認できました。この範囲は約18,700kmの走行の間に、徐々に疲労破壊が進んだと思われます。残りの4/5は一発破壊と思われます。

直径が4/5位まで減っただけで一発破壊してしまうと言うことは、この形状と材質に対して安全率が低いように思われました。軸径BC3/8はJISで決まっている寸法です。もしかしたら材質が悪かったのかもしれません。

同等の車軸を入手して修理することも考えましたが、ボスフリー式が本質的に持っている(と私が勝手に思っている)「フリー側軸の過大な曲げモーメント」の事を考えると、今回は一気に太い軸に作り替えてしまおうと考えたわけです。


ここにはワンを外した画像があります。

太い軸にするにしてもいくつかの方法が有ります。20年以上前にマイレッジマラソンの時に試した方法は、ワンの内径を26mmまでグラインダで拡大し、6000を叩き込む方法でした。この方法は一番簡単に軸の構造を変更できますが、車輪が付いたままでワンの内径を削るという行為が何とも荒っぽい感じです。

じっくりとハブをみているとワンの外側に筋が見えます。考えてみればワンは硬い材質のはずでハブ本体は加工性も考慮した材質のはず。と言うことは圧入?と考えて叩いてみるとワンだけを取り出すことが出来ました。

ワンの外径はピッタリ30mmでした。ここにベアリングを打ち込めば、上記の方法よりは機械屋的な対処方法と思われました。


ここには車軸の検討図があります。

上記に沿って検討した図面がこれです。ベアリングは最終的に12x28x8の6001に成りました。10x30x9の6200にするという手も有ったのですが、せっかくなら強度の高いφ12を採用したいと判断しました。外径が28mmなので28x30x8のリング状の部品を作る必要が出てきます。

簡単に強度の検討をしておきます。BC3/8の谷の径はφ8.49mmです。これをφ10mmにすれば曲げ強度1.63倍に増加します。これだけでも十分かもしれません。今回のφ12mmまで大きくすれば曲げ強度は2.82倍に増加します。多少いい加減な材質を使ったとしても、簡単に壊れる事は無いでしょう。

強度比較だけでなく、念のために応力も計算して置きます。体重70kgと自転車15kgの合計85kgの6割が後輪に加わり、さらに荷台の荷物15kgが加わったとすれば後輪の荷重は66x9.81=647Nと成ります。片側のエンドが受け持つ荷重は324Nです。

ここでキツイ方のフリー側軸受け部のモーメントは、M=324x30=9720Nmmと成ります。BC3/8の谷底の断面係数はZ=(πx8.49^3)/32=60.1mm^3です。同じくφ12mmの場合はZ=(πx12^3)/32=170mm^3と成ります。

ここでそれぞれの応力を出してみると、BC3/8の場合はσ=162N/mm^2であり、φ12mmの場合はσ=57.2N/mm^2です。ねじや段の応力集中を考慮すると、材質や熱処理などが良ければ良いのでしょうが、そうでなければBC3/8の方はちょっと高いような気がします。製鉄機械とか荒っぽい機械を中心に見てきた人間としては・・・。

今回の首題とは違いますが、高めの応力の主因はボスフリー式で6段を採用したハブの構造的な問題かと思っています。1段ならフレームのエンド部と軸受け部の距離を近く設計できますが、ボスフリーで多段化するとどうしても軸受け部が車軸中央に寄ってきます。結果的にその部分の曲げモーメントが大きく成るわけです。

この問題を解決するには、フリー側の軸受けをフリー自体に装着してしまい、トップギヤの下辺りに配置すれば良いことが解ります。シマノの後ハブも同じ様な構造に変化しています。しかしこの場合は別の問題も考えられます。ハブとフリーを分離式とした場合、それらを接続するねじなどに相応の強度と精度が求められます。この部分がいい加減であれば、フリー側のワンが傾いたりする可能性が有るわけです。

もうそんなに面倒くさいなら、太いシャフトを通してスポークの下辺りに素直に軸受けを配置したらいいやん。フリーの下にはそれ専用の軸受けを置いて。。。こう考えていくとアメクラのハブとか、新しいデュラのハブの構造が理解できます。


ここには加工中の画像があります。

何となく考えが纏まってきたので製作開始です。軸の材料は古いオートバイの車軸かスイングアームの軸と思われる部品を使いました。ベアリングもマイレッジの時の予備品なのか、ゴムシール付きの6001が2個出てきたので買う物は有りません(^^)。

この車軸はなんとなく削りにくい材質でした。削れることは削れるのですが、表面がむしれたような感じの光沢になりがちで汚いのです。経験が浅いので理由が良く解りません。

もう一つ苦労したのはねじ切りです。片側は素直に切れたのですが、反対側に焼きが入っていたみたいでハイスのバイトが何回も切れなく成って苦労しました。


ここには完成した車軸の画像があります。

多少の苦労も有りましたが、旋盤の練習としては最適な内容の教材として車軸が完成しました。ベアリングのハメアイ部分は片側は完璧でしたが、反対側は目標よりも0.03mmくらい緩くなってしまいました。こんな時はバイスでガッと鋏んで変形させておきます(笑)。

あとは位置決めのスペーサとかベアリング外周のリングを製作したら全部の部品が完成です。


ここにはブレーキ側の画像があります。

ブレーキ側の画像です。

ブレーキの穴やブレーキを固定する薄いナットを流用する為に、ブレーキ貫通部分はBC3/8の寸法としました。でも後から考えてみれば、ちょっとサイズを上げてM10x1.0くらいにしておけば良かったような気がします。


ここにはフリー側の画像があります。

フリー側です。

手前のナットの外側がフレームのエンドと接します。ナットの5mm手前まではφ12mm弱(φ11.7mm)の太さで来ています。強度と剛性の向上は相当な物と思われます。乗っても全然解らないとは思いますが。

あとはギヤAssyをねじ込んで、ホイールAssyを車体に装着して完了です。修理した!強くなった!と言う達成感は有りましたが、普通に走って普通に止まるだけなので何の感動も有りませんでした(^^)。


買ってから10ヶ月目にBBが壊れたこの自転車。その後はペダルが壊れただけで大きな故障は有りません。今回の破損に関してはボスフリー式の構造的な問題が大きいと感じてしまうので、なんとなく安物の品質を責める気分に成れない私が居ます。

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