RIGHT STUFF, Inc.Right Stuff Wrong Stuff温度補償付きレギュレータの製作 自作のFETレギュレータも順調に動いているので、宿題になっていた出力電圧の温度補償を組み入れる事にしました。
鉛蓄電池の充電に関しては、温度が低くなるにつれて充電が困難になることが知られています。逆に高温になると、充電が容易になり場合によっては過充電に成ってしまう可能性もあります。 これらの特性を和らげて少しでも良い充電や長い寿命を得るため、充電電圧を鉛蓄電池の槽温度や外気温によって変更する事が行われています。 この件に関しては各種の書籍などに書かれていますが、以下のグラフは松下電池工業がWEBで公開している資料からの抜粋、引用です。元の資料は単セル電圧が基準なので、12V系に変換した値を横に追記しています。バッテリーはシールタイプです。
次はデンソーが同じくWEBで公開している資料からの抜粋、引用です。対象としているバッテリーは明確ではありませんが、乗用車のバッテリーが対象なので開放型やシール型の鉛蓄電池と思われます。横軸の温度はバッテリー温度ではなくてレギュレータ(=オルタネータ)温度と成っています。 グラフが2段階に成っているのは少し特殊なレギュレータの説明だからです。加速時には出力電圧を下げてエンジンの負荷を下げ、減速時には通常の充電を行う2段階の出力電圧を持ったタイプです。電圧の絶対値自体は異なっていますが、何れも低温では高い充電電圧、高温では低い充電電圧と言う傾向は変わりません。
二段階切り替えはやり過ぎのような気がしますが、温度補償に関しては「見かけはボロボロ中身は最新の電気系」を目指す(笑)私のXSにもぜひ必要な機能です。単純に気分が良いだけではなくて、バッテリーの充電状態や寿命にも確実に良い効果が有る事でしょう。 最初に考えた回路がこれです。温度特性の異なるツェナーダイオードを用い、温度係数を逆にしてしまおうという考えです。
一般的にはトランジスタのVbeの温度係数は-0.002V/K程度。12Vツェナーダイオードの温度係数は+0.008V/K程度有ります。そのために以前の回路では気温が低くなると充電電圧が低くなると言う良くない傾向がありました。 これを是正するために、ツェナーダイオードの温度係数をマイナスにしてやろうという考えです。5V程度を境に温度係数は逆転しますので、3Vのツェナーダイオードを4個直列にして使ってみようと考えました。 計算上では以下のグラフのように良い感じだったのですが、広島のジャンク屋で多量に購入していた手持ちの3Vツェナーダイオードではうまく行きませんでした。調べてみるとこのツェナーダイオードは温度補償されたタイプだったのです。 変動して欲しいときに限って安定した部品が出てくる・・・人生とはこういう物なのでしょう(笑)。
次に考えた回路がこれです。こちらはサーミスタを使って温度補償を行う考え方です。
「温度」「変化」と考えたら普通はサーミスタです。調べてみるとNTCと呼ばれる高温側で抵抗値が低下するタイプの方が入手性が良いように思えました。そこでこちらを使って見ることにします。 電圧の変化を頭で追っかけながら、NTCタイプのサーミスタを何処に入れたら良いのかを考えます。それなりに考えが纏まったら、表計算に式を入れて計算させながら各部の数値を決めていきます。 Vbeの温度係数は-0.002V/K。12Vツェナーの温度係数は+0.008V/K。サーミスタの抵抗値は25℃で1000Ωに係数は3100Kです。入手性などを考えながら何となく良さげに纏まったのがこの数値でした。 サーミスタの抵抗値を出すには、大昔に忘れたexpとかそんな計算が必要でした。少年少女達よ、「数学とか物理とか必要性が解んな〜い」等と言わずに勉強しておきましょう。年を取ってオートバイのレストアをするときになって後悔します(笑)。
制御電圧のグラフはこんな感じに成ります。こちらは現物の実験でもうまく検証できました。
紙の上と机の上で旨く行ったので、XSのレギュレータもこの方式に入れ替えてやりました。 実際に使うのは少し常数を見直しています。XSの場合は最後の回路図に書いているように、負荷を流れる電流による電圧降下の分だけ検出電圧が低く現れてしまうのです。 逆の表現をすればライトを常時点灯したりすると、レギュレータの設定電圧よりも0.2V-0.4Vくらいは高い充電電圧に成ってしまいます。このあたりを考慮して、単体で14.15V(at25℃)にセットしたレギュレータを取り付けました。 実装上も注意が必要です。効率が良いとは言ってもFETは発熱します。従ってFETは金属ベースに密着させて取付、トランジスタ、ツェナーダイオード、サーミスタ、等はそこから離して出来るだけケース内の空気と同一温度に成るように実装しています。
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