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Cree社製LED XLamp XR-E を自転車で使う

だいぶ値段が下がってきた数WクラスのLEDを、自転車の前照灯として使ってみることにしました。

数年前にハブダイナモの測定をしたときから、ハブダイナモの定電流源的な特性とLEDの定電流駆動して欲しい特性の相性が良さそうな所が気になっていました。

その頃から高出力で高効率のLEDは世の中に出ていたのですが、単純なlmlm/Wだけでなく、lm/円も気になる(笑)私にとっては実際に購入するまでには至らず、軽く検討しただけで将来の宿題になっていました。

先日ある方から、LEDチップのみならハロゲン電球と大差ない値段で購入できる様になった事をメールで教えて頂き、それならそろそろ始めてみようかと動き出した次第です。

LEDに関しては懐中電灯マニア的な方が詳細のページを多数立ち上げておられますので、特に目新しい内容は出てこないと思います。基本的に自分用の設計仕様のメモに近い内容です。


LEDに関してはlm/円や絶対的な価格を最重点項目に置きながらも、平均走行速度、バッテリー容量、今の7.2Vシステムとの互換性などを考慮して、Cree社のXlamp XR-EというLEDに決めました。

このLEDは350mA駆動時に1.16Wの電力を消費し80lm程度の照射を実現しています。また最大で1000mAまでの電流を流すことが可能です。このときの消費電力は3.7Wになります。平均走行速度時の発電能力などを考慮して、このLEDを2個直列で使うことにします。

ここにはLEDの電圧電流特性図があります。

XR-Eを2個直列にしたときの電圧-電流特性です。検討作業がやりやすいようにデータシートのグラフを近似式で表して使っています。個体差やジャンクション温度に依っても変動しますから、目安と捉えておく必要があります。

ここにはLEDと組み合わせたグラフがあります。

ハブダイナモとLEDの2直列を単純に組み合わせたグラフです。整流用ダイオードの電圧降下などを考慮する必要は有りますが、思わずニヤッとしてしまうくらいぴったりの特性です。

時速10km/hでは150mA位流れ、時速20km/hでは430mAとなります。時速30km/hでは480mAまで増加し、時速50km/h出しても510mA程度でサチレートしています。電流制限抵抗もCRDも定電流制御のDC-DCも有りませんから、非常に荒っぽい言い方をすればシステム的な効率は100%です。

この考え方でグラフを眺めていけば、巡航速度が低い場合はLEDを1個にしたらもっと低速から高めの電流になりますし、平均速度が30km/hくらい出る人の場合はLEDを3個直列にした方が高速では明るくなるのが明白です。

今回はLEDを2個しか購入していませんし、既設の7.2V電源との互換性などを考慮して2個直列で行こうと思います。


光学的な実験と検討中に困った問題を発見してしまいました。それは電球とこのLEDの配光特性の違いです。各種のリフレクタを取っ替え引っ替え実験をしていて気がついたのですが、電球ほどリフレクタが効かないのです。

ここには配光特性図が有ります。

この図はXR-Eの仕様書のデータを元ネタにして追記した物です。中央の黒い山形の線がXR-Eの特性です。単体でもかなりの指向性を有していることが解ります。60度よりも外側にはほとんど光を出していません。

赤い線はXR-Eと同じ光量の電球を想定した線です。電球は基本的に全周囲を均しく照射するはずですが、160度で下がっているのは口金の部分を考慮した結果です。H3等のバルブならばここは175度くらいまで来そうです。

60度よりも外側をカバーするリフレクタの場合、電球であれば約65%の光束を捉えて制御することが可能です。しかしXR-Eの場合は60度よりも外側には10%以下の光しか出ていません。大半の光は電球用リフレクタに当たらずに直接前方に出て行くのです。

電球用のリフレクタがほとんど効果が無い理由が分かりました。と言うことはXR-Eにリフレクタを装備する場合、電球よりも深く覆うタイプにすれば良いことになります。どの程度の深さが必要なのかを目視積分器(笑)で検討した結果、20-25度の位置まで覆う必要が有ることが解りました。

確かにこの程度の深いリフレクタなら6割を越す光束を制御することが可能です。しかし問題も出てきます。直接光もこの範囲に狭められてしまうために、周辺を照らす光が激減してしまいます。スポットライトが欲しければそれでよいのですが、私の欲しているのは自転車用の前照灯です。しかも私はどちらかというとワイドに照らすタイプの方が好きです。

LEDライトの場合、複雑な形状のレンズと言うかプリズムが前方に設置してあったりすることが有ります。その辺の理由が少しずつ分かってきた気がします。こんなのは自作できません。困りました・・・。


ここには光学系の実験画像があります。

最初に思いついたのがこれです。放物鏡を半分にして上からLEDで照射する構造。これだとLEDの大半の光束をコントロールできるし、車両で不要な上方への光束のカットも出来ます。


ここには光学系の実験画像があります。

上の案を実際に実現してみた例です。見た目から「雪平リフレクタ」と呼んでみたけれど、自転車に乗るのさえはばかれそうな恐ろしい外観に成ってしまいました(笑)。

放物鏡の製作精度と反射率の問題があるので最高の性能は出ていません、それでも頭の中で考えたとおりの光束に成ることは確認出来ました。しかし現実問題としてこのような形状で反射率の良い鏡を自作する方法が難しく、案は素晴らしいと思いながらもこれから先に進んでいないのが残念です。


ここには光学系の実験画像があります。

単純に深めの反射鏡だけで構成したみた例です。作るのが少し面倒になりますが、放物面を深めにしておけばそれなりの量の光束をコントロールする事が可能です。

ただ深い放物面を自作することは難しいし、懐中電灯の反射鏡は電球用なので浅すぎる。。。上記と同じ様な理由で実用品に纏めるのは停滞気味の案です。


ここには光学系の実験画像があります。

製作の困難な放物鏡を諦めて、単純な円錐形の反射鏡と凸レンズを組み合わせた例です。比較的自作が容易な構造で全ての光束をコントロール出来ます。

レンズの焦点距離とLEDの位置関係を上手に選べば、それなりに必要な範囲を照射する光束が得られます。しかし全体があまりに均一すぎて、自転車用としてはもう少し中央にスポット光が欲しいくなります。要は遠くが見えません。それにあまりにくっきりした円形が浮かび上がってしまうので、その外が真っ暗でちょっとだけ走りにくい面もあります。


ここには光学系の実験画像があります。

現実的な妥協案です。実験時の画像なのでちょっと変な形をしています。手間の茶色の板は放熱用の銅板です。

これは市販のコリメートレンズを使っています。XR-E専用と成っていましたが、安価なプラスチック製なのが幸いしてレーザー用ほどピンポイントのスポット光は得られません。指数関数的に中央から周辺にかけてぼやっとしたそれなりの光束が得られます。

或る程度の速度で走る自転車にはこの光度分布が具合が良く感じます。欠点としては上方にも同じ量の漏れ光束が有ることです。実際に並べてみると車やオートバイ程の明るさは無いのですが、迷惑照射で有るのは明らかだし勿体ない無駄照射でもあります。上手にコントロール出来れば簡単で良い物が出来そうです。


話が前後しますが放熱設計に関してです。白熱電球の場合はこの点に関しては結構タフなのと、熱線として外部に放出する事も有って何も悩まなくても良いくらいです。

しかしLEDは半導体ですから、ジャンクション温度が上がれば寿命が極端に短くなります。寿命なんか気にしないと言う用途であっても、ジャンクション温度が100℃まで上昇すると発光量が2割も落ちてしまうので、あまり無理をさせると高効率LEDを選定した意味が無くなります。

ここには放熱特性グラフがあります。

XR-Eの仕様書にある放熱特性図です。この図はRj-Aと書かれていることから、ジャンクション温度と周辺温度との総合的な熱抵抗を表しています。これより周辺温度30℃の時に1000mAを流すには30℃/W以下の熱抵抗に押さえる必要が有ることが解ります。

とりあえず設計の目標は上記の30℃環境下で1000mAとします。XR-Eはジャンクション-半田付面に8℃/Wの熱抵抗が有りますから、放熱器に必要な熱抵抗は22℃/W以下です。この引き算は接合面の熱抵抗を無視していますが、自転車の走行風も考慮していません。いい加減ですが(^^)プラマイで考えて22℃/Wと考えて良いことにします。

色々な資料がありますが、22℃/Wは1mmアルミ板で1200mm^2(35mm角)程度。市販の放熱器では10000mm^3(22mm角)程度の様です。このあたりを目安に放熱器の形状を決める事にします。

ここには放熱器の画像があります。

今回は最初から2個直列で考えて居ましたから、2個分でこのような放熱器に取り付けてみました。サイズは66mm×52mm×19mmです。XR-Eを1mmの銅板に半田付けし、その銅板をアルミ製の放熱器にスーパーXで接着しました。引き出した電線はテフロン系の耐熱電線です。


ここにはコリメートレンズ式の画像があります。

自作の光学系に見切りを付けたわけでは有りませんが、そのほかの部分を煮詰める為にも無難な光学系のセットを用意しておく必要が有ります。そこで作ってみたのがこのセットです。

ドームが取れてしまったCreeに上の方に紹介した市販のコリメートレンズを装着し、2個を直列接続した物を、放熱版として銅板に半田付してアルミ放熱器に接着した物です。

ずいぶん小型化して一気に実用的になりました。コリメートレンズが小さいので衝撃などにも強そうです。配光特性は中央部が指数関数的に明るくなるような特性なのですが、これが車のハイビームに近い特性になっていて走りやすいです。

手前の明るさはそこそこで、中央部の光束が数十m先の路面や標識を照らすイメージです。街中の歩道や低速のママチャリ用ではなくて、20km/h-30km/hを維持するブルベ的な走行に合っているように思います。

この方式では上方向への無駄照射が発生し、エネルギーが無駄になったり迷惑に成ったりするのが気がかりでした。しかし実際にライトをハンドル部に装着すれば光軸はかなり下を向けてセッティングすることになり、その状態で対向して眩しさを見てみるとオートバイや車のロービームと変わらない様な感じです。

実験的に上半分をカットするような反射板を付けてみましたが、全ての上向き光束をカットしてしまうと標識や行先表示板が全然見えません。車と同様に標識を見ようとすると上向き照射は生かす必要が有ることも解ってきました。軽トラですら両目で100Wを越すライトを装備している訳ですから、数WのLEDごときでは当然と言えば当然の結果です。


ここには回路図が有ります。

直ぐ上のLEDライト用に作った回路です。この状態は昼間走行中で充電状態を示します。スイッチを上に上げるとLEDが点灯します。

充電中は整流されたハブダイナモ出力が、ダイレクトに7.2Vのニッカドに接続されているだけです。この方式は或る程度解った人間とか、余裕のある電池容量であればシンプルで解りやすいシステムです。充電の効率などを考えると、平滑コンデンサを追加した方が良いような気がしています。

点灯時は少しだけ複雑です。まず7.2Vから3オームの抵抗経由でLED2個が駆動されます。LEDのVfの値にムラがありますから、3オームは実測して決定する必要があります。今回の電流は150mAを目標にしました。

嘘を書いていました。どうもメモを見間違えたようです。3Ωの制限抵抗では停止時に320mAが流れます。走行してハブダイナモから500mA程度の供給が始まると、LED電圧が若干増加して電池側の電流は320mAから200mAまで減少しました。

走り出すとハブダイナモ出力がLEDに加わります。単純に考えると500mAの定電流源が追加されたような物ですから、LEDは合計で650mA700mAで駆動されることに成ります。駆動電流が増加するにつれてVfが上昇するために、抵抗経由の電流が減少する訳です。

実験的に電池での駆動を殺してみると早歩き程度の速度からLEDは発光を始めました。電球と違って低電流域でも比較的十分な照射が得られるLEDの特性からか、停止時に光らせる必要が無ければハブダイナモ直結で十分と思いました。

しかし現実の夜の走行を考えると、交差点の停止状態でもライトを点灯していた方が絶対に安全です。昼間で姿が見えていても、こちらが自転車やオートバイなら無視して強行右折する四輪が多数居ます。そう言うドライバーと混走せざるを得ない現実の元では、停止時も点灯した方が生存の可能性が高いと思います。


2009年11月07日追記

ここには新しい電池パックの画像があります。

日曜日はトライアスロンの練習会に行くようになり、ブルベへの参加がほぼ無くなりました。この自転車は継続して買い物とかプールの往復に使っていましたが、とうとう電池が死んでしまいました。

使っていた電池は1400mAh容量のニッカド電池でした。広島の松本無線のジャンクで買ってきたユニシスと書かれた電池パックを分解して取り出したものです。この時点で相当古いのにえらく長寿命で素晴らしい電池でした。容量だけの競争に突入する前の時代の製品だからでしょうか?

新しい電池は秋月で購入したニッケル水素で、GPの450LAHという型番です。サイズは一緒ですがニッカドからニッケル水素に代わり、容量が1400から一気に4500mAhに増加しました。どのくらい長持ちするかは解りません。

パックに組み立てるためにタブ付きを買ったのですが、タブを触っているだけで1個のタブが取れてしまいました。流石秋月品質(笑)、と苦笑しながら直接半田付けしましたが、振動的に何時か外れそうで怖いです。

この電池の標準充電条件は450mAで14時間となっています。また、過充電に関しては「450mAで1年間充電を続けても変形とか液漏れは起こらない」との記載が有ります。ハブダイナモに直結で使った場合、この位大容量だと無頓着でも行けるかもしれません。


2010年05月07日追記

秋月の電池ですが初期のトラブルは有りません。装着以来、普通に使えています。冬の間は1月ほど乗らない事も有りましたが、その間に放電しきってしまう事もなく、使い始めから普通レベルの光量で点灯してくれました。

書き忘れていますが、最初の段階から尾灯も並列に点灯させています。キャットアイの古い楕円形のタイプで、無点灯でもJISの反射鏡としての機能を有しているタイプです。最近はこのタイプが売ってないです。


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